乳癌は近年著しい増加を示しています。この現象は女性の社会での役割の変化と大きく関係し、未婚、晩婚、未妊娠、未出産、高齢出産、アルコール摂取などが原因の一部と考えられています。このような背景から、日本医科大学付属4病院では、乳癌診療の充実を図ってまいりました。
また、他の癌と同じく、乳癌の診断、治療は近年著しく進歩しており、その進歩は非常に早いものです。最近(2018年7月)、遺伝性乳癌の原因遺伝子である、BRCA遺伝子を調べて、この遺伝子に異常のある患者さんに効く薬剤を投与することが保険で認められました。この治療が承認されたことは、今後の遺伝子に関連した治療の発展を示唆する点でも、非常に画期的なことと思われます。
乳癌は癌細胞の性質や腫瘍の大きさ・リンパ節転移などの進行度により、最適な治療法が決まってきます。癌細胞の性質という点では、癌細胞の遺伝子を調べ、特徴的に4つのタイプが存在することが分かりました。Luminal A、Luminal B、HER2-enriched、Basalの4つです。これらのタイプは遺伝子解析をせずに病理診断でもかなりの精度で診断できますので、日常診療において、4つのタイプに分類し、それぞれに合った治療を行えるようになりました。すなわち、Luminal A:内分泌療法、Luminal B:内分泌療法+化学療法、HER2-enriched:化学療法+抗HER2療法(分子標的治療)、Basal:化学療法というようなタイプ別の推奨治療となっています。これらの内分泌療法、化学療法、分子標的療法にはさまざまな薬剤がありますので、患者さんの状態に応じて最適な薬剤を選択することになります。
一方、手術についても、現在では、乳房部分切除術、乳房全切除術、乳房再建術(同時に施行する場合も後日に施行する場合もあります)があり、すべて保険で承認されており、選択の幅が増えています。
選択の幅が増えた中で、薬物療法、手術療法のいずれにおいても、医師、看護師、薬剤師と患者さんがよく話し合い、どのような方法が個々の患者さんにとって最良かを考えて、決定していくことが大切と考えています。
日本医科大学付属病院では、ほとんどすべての診療科がそろっており、心臓、肺などに合併症がある患者さんでも十分な対応が可能です。また、セカンドオピニオンも受け付けており、病理診断に関することも含め、乳腺疾患に関するすべてにおいて、お悩みがありましたら、ご連絡ください。
前にも述べましたように、乳癌の診療は日進月歩です。その進歩には臨床研究はもちろんですが、基礎的研究も重要です。日本医科大学では、大学院として乳腺外科学分野を2012年に開設しました。このような乳腺分野の大学院を有する大学は決して多くはありません。この大学院での研究が乳腺疾患の診断、治療の進歩に大きく寄与できるように進んでまいりたいと思っております。
日本医科大学付属病院乳腺科は、2008年5月に、初代教授として芳賀駿介先生が招聘され、誕生しました。そして、2012年4月に日本医科大学大学院の再編に伴い、診療、教育、研究という3本柱が揃った乳腺外科学分野が新たに設立され、私が2013年4月より芳賀前教授の後任を引き継がせて頂いております。
現在、日本医科大学付属4病院それぞれに乳腺科外来(千葉北総病院 飯田信也教授、武蔵小杉病院 蒔田益次郎教授、多摩永山病院 横山正講師)を開設し、日々臨床と研究に勤しんでいます。また、付属4病院と特定関連病院である北村山公立病院を加えた5病院で、講演会、勉強会、臨床研究などを共同で行っています。
経歴:1972年 群馬大学卒
2002年 東京女子医科大学附属第二病院外科学 教授
2008年 日本医科大学乳腺科 初代教授
2012年 日本医科大学大学院乳腺外科学分野 教授
2013年 ご退任
2017年 ご逝去
第17回日本乳癌学会学術総会 会長
著書:非浸潤性乳管癌の基礎と臨床(2001年)
非浸潤性乳管癌のすべて(2010年)